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東京地方裁判所 昭和29年(行)58号 中間判決

原告 医療法人財団 磯医院 外四名

被告 国

訴訟代理人 横山茂晴 外一名

主文

原告等の本件訴は適法である。

事実

原告ら訴訟代理人は、「原告医療法人財団磯医院は昭和二七年七月二三日贈与を受けた資産の総領二、五五二、四八六円について被告に対して相続税法第六六条第四項による相続税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団織本外科病院は昭和二七年九月三〇日贈与を受けた資産の総額三、七六〇、一七〇円について被告に対して同条第四項による相続税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団塩田会は昭和二七年一二月一〇日贈与を受けた資産の総額四、五四七、〇七八円について被告に対して同条第四項による相続税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団緑生会は昭和二八年三月二三日贈与を受けた資産の総額三、七八〇、九四八円五銭について被告に対して同条第四項による贈与税の納税義務が存在しないことを確認する。原告医療法人財団同生会は昭和二九年二月二日贈与を受けた資産の二、二三六、六〇〇円について被告に対して同条第四項による贈与税の納税義務が存在しないことを確認する」との判決を求め、請求の原因として、次のとおり陳述した。

一、原告医療法人財団磯医院は昭和二七年七月二三日に資産の総額二、五五二、四八六円で、原告医療法人財団織本外科医院は同年九月三〇日に資産の総額三、七六〇、一七〇円で、原告医療法人財団塩田会は同年一二月一〇日に資産の総額四、五四七、〇七八円で、原告医療法人財団緑生会は昭和二八年三月二三日に資産の総額三、七八〇、九四八円五銭で、原告医療法人財団同生会は昭和二九年二月二日に資産の総額二、二三六、六〇〇円で設立された医療法第三九条第一項の規定に基く財団形態の医療法人である。

二、医療法第三九条第一項の規定によれば、医療法人は財団または社団であるので、医療法人は民法所定の公益法人であるかの如くみられるが、その実体は公益法人ではない。医療法制定の経過に鑑みれば、商法上の会社等が医療事業の経営主体となることはその特殊性よりみて期待すべき方策でないとして、特別法による営利を目的とする法人制度として医療法人を設けたものである。この制度を設けた所以は、資金の集積調達を容易にし、死亡等による相続税の賦課を免れしめることにより私人による病院建設を促進し、その永続性をはかるためであつた。従つて原告らは法人税法第五条第一号に規定する公益法人としての非課税の取扱を受けず、その所得及び積立金については商法上の会社と同様法人税の納税義務を負担してきたのである。

三、しかるに、被告は相続税法の改正(昭和二七年法律第五五号同二八年法律第一六五号)に伴い、同法第六六条第四項にいわゆる「その他公益を目的とする事業を行う法人」中に原告ら医療法人が包含されるものとの解釈をつくりあげ、原告らに対してなされた寄附行為による財産の贈与が相続税または贈与税を不当に減少することになるものとして、右贈与につき原告らを個人と見做して原告らに相続税または贈与税を賦課する方針をとつた。

四、被告は右方針に基き原告らに対し昭和二八年頃より昭和二九年六月末までに数回にわたり、

(一)  その寄附行為の規程において、

(イ)役員会等の構成につき特定者一族以外の者が過半数を占め、

(ロ)  解散した場合残余財産が国または公共団体に帰属するようにそれぞれ変更をしたうえ、その計算が特定者一族の私生活から明白に分離して処理され、公益法人らしい形式内容を整えて租税特別措置法第一七条及び同法施行規則第二一条第一項に規定する大蔵大臣の承認を求めて非課税の取扱を受けるか

(二)  これを解散して医療法第三九条に規定する社団たる医療法人として再出発するか、または個人として営業を始めるか

の二者択一をなすべき旨を通告し、原告らが現状のまま営業を継続する場合は、相続税法第六六条第四項により原告医療法人財団磯医院、同医療法人財団織本外科病院、同医療法人財団塩田会に対し相続税を原告医療法人財団緑生会、同医療法人財団同生会に対し贈与税を賦課するとの威圧を加えて原告らに法人組織の変更を強制しているのである。

五、原告らはなんら公益を目的とする事業を行う法人ではないので、相続税法第六六条第四項による相続税、贈与税の納税義務はないのである。しかるに被告の前記措置により右納税義務の存在を前提とする通告を受け、組織の変更を強要されている状態なので、原告らが前記納税義務なきことの確認を求めるため本訴請求に及んだ。

このように述べ、被告の主張に対して、次のとおり主張した。

一、被告は「行政処分がなされる以前に行政庁を拘束するような内容の判決を求める請求は許されない。もしこのような請求が許されるとすれば、裁判所が行政庁に代つて実質上行政処分をするのと同様の結果になるからである。」と主張する。然しながら「裁判所が具体的な行政処分のなされた後に、その処分それ自体が違法であるか否かを判断して司法上の救済を与えるのは、いわゆる抗告訴訟及びこれに準ずる行政処分無効確認訴訟についてのみ妥当する。公法上の権利関係の存否について争があり、その争が解決を必要とする場合、すなわち確認の利益がある場合、裁判所にその存否の確認を求め得ることは、行政事件訴訟特例法第一条の規定から当然に導かれるところであつてこれをもつて司法権による行政権の侵犯であると論ずるのは失当である。裁判所が公法上の権利関係の存否につき判断する場合、行政庁に対し行政処分を命ずるわけでもなく、また行政庁の行政処分を裁判所が代行するわけでもない。ただ裁判所は争いある公法上の権利関係につき、その存否を判断するのみで、行政庁はその裁判所の判断を尊重して行政処分をなすことが期待されるのみである。

二、確認の利益について。

被告は、原告らの本訴請求が、いわゆる確認の利益を欠くと主張するけれども、本件租税債務の存否の確認を求めることは原告ら法人の死活に関する問題で、右確認の利益があることは疑がない。

(一)  相続税あるいは贈与税の納税義務は、相続税法第三五条第一項及び同条第二項の更正処分または決定処分をまつて始めて発生するものではない。右の処分は申告書に記載する課税価格または相続税額もしくは贈与税額が税務署長の調査したところと異なる場合及び申告書の提出がない場合の附随的処分にすぎず相続税法の納税システムはあくまで納税義務者の申告により納税せしめるにある。

ところで原告らは、いずれも請求原因第一項記載の日時にそれぞれ同項記載の財産の贈与を受けて、成立したのであるが、昭和二八年八月一日法律第一六五号相続税法の改正により贈与に対し贈与税なる名称の課税が設けられたため、原告緑生会及び、同生会については、贈与税、右改正前には、贈与についても相続税を賦課することとなつていたので、原告磯医院、同織本外科病院、同塩田会については、相続税がそれぞれ問題となるのである。そして原告らが相続税法第六六条第四項に該当し、それぞれ、相続税または贈与税の、納税義務ありとすれば、その納税義務は、それぞれ原告らに対する財産の贈与の時に発生し、原告らは同法第二八条により申告書提出の義務を負担するのみならず、申告書を提出しないで放置するならば、同法第三五条第二項、第三七条により、決定処分をうけ、追徴税額の徴収をうけるのであるが、この際は、同法第五一条第三項により、右追徴額について、同法第三三条第一項の納期限の翌日からその納付の日まで百円につき一日四銭の割合の利子税領を加算徴収されることになるそれのみではなく、同法第五三条第二項により無申告加算税の徴収をうけるほか、同法第六九条により無申告犯として刑罰の制裁すらうけねばならぬこととなる。従つて原告らにとつて相続税または贈与税の納税義務の有無をすみやかに確定する必要があることはいうまでもない。

(二)  すでに述べた如く、被告は、原告らに相続税法第六六条第四項による相続税または贈与税の納税義務があることを前提として、原告らが解散等の措置をとるならば、課税につき考慮するけれども、そうでなければ、過大な税負担を免れないと原告らに直接または間接に通告して、その解散、組織変更を強要している。従つて原告らのみならず、医療法人財団はすべて、解散すべきか否かの岐路にたつているのである。それ故原告らは、本件租税債務の存否を確定することにうき、死活をかけている状態であつて、原告らが本件訴に確認の利益を有することは、当然のことといわなくてはならない。

以上のとおり述べ、立証として甲第一ないし第五号証を提出した。

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、原告らの主張に対して、次のとおり述べた。

原告ら主張事実の第一項中原告ら主張の贈与をうけた各資産総額の点は知らないがその他の事実はすべて認める。第二項中、原告らが法人税の納税義務を負担してきたことは認めるが、その他の主張は争う。第三項中、医療法人が、相続税法第六六条第四項にいう法入に該当するとの解釈を被告が採用していることは認めるが、その他の主張は争う。被告において原告らに対し、現実に相続税または贈与税を賦課するか否かはまだ決定していない。

第四項については、被告が税務行政上の配慮から、医療法人に対しても提供者あるいはその同族関係者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合には課税されるのであるから、課税を欲しないものがあれば、(イ)定款を変更して不当に租税負担を減少する結果とならないようにし、そのことについて租税特別措置法第一七条同法施行規則第二一条第一項により大蔵大臣の承認を受けるか、あるいは、(ロ)社団組織に改めるか、(ハ)個人営業に復帰するかの方法を採るべきであることを、一般医療法人に周知させたことはある。しかしながら、被告は、原告ら医療法人財団に対して、原告らが主張するように、その解散、組織変更を強制したことは全くない。原告らについて、具体的に課税すべきか否かは決定していないのである。

被告の主張は次のとおりである。

原告らに対しては、まだ相続税あるいは贈与税の課税処分がなされていないにもかかわらず、原告らはその処分に先立つて原告らに相続税または贈与税の納税義務がないことの確認を求めでいるが、かかる請求は、次の理由によつて失当である。

わが国の現行法上、行政法規の執行は行政権に委ねられ、裁判所は、具体的な行政処分がなされた後に、その処分の違法であるか否かを判断して、司法上の救済を与えるのを職分とする建前となつている。従つて行政処分がなされる以前に、行政庁を拘束するような内容の判決を求める請求は別段の規定なき限り許されないと解しなければならない。なぜならば、もしかかる請求が許されるとすれば裁判所が行政庁に代つて実質上行政処分をするのと同様の結果を生ずることとなるからである。このことは、租税法規の分野においても同じである。すなわち相続税法においては、所轄税務署長は、納税義務者から申告書が提出された場合において、当該申告にかかる課税価格または相続税額もしくは贈与税額がその調査したところと異なるときは、その調査により課税価格または相続税額もしくは贈与税額を更正し(相続税法第三五条第一項)、申告をなすべき納税義務者が申告書を提出しない場合においては、その調査により、その課税価格及び相続税額もしくは贈与税額を決定する(同条第二項)。かかる更正または決定処分に対し不服のある納税義務者にして初めて、法の定めるところに従つて、行政上の救済のほか、司法上の救済も求めることができることになつている(同法第四四条ないし第四八条)。この趣旨とするところは、課税価格または税額の有無及び多寡を争うならばこれについて課税処分があつた後において、その処分について争うべきであつて、更正または決定処分のなされない以前に本件のように納税義務のないことの確認を求めることは許さない趣旨であると解すべきである。

よつて、原告らの請求はこの点において理由がないから、棄却されるべきである。

以上のとおり述べ、甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

被告代理人は、「原告らに対して、まだ相続税あるいは贈与税の課税処分がなされていないにもかかわらず、原告らはその処分に先立つて原告らに相続税または贈与税の納税義務のないことの確認を求めているが、このように、行政処分のなされる以前に行政庁を抱束するような内容の判決を求める請求は別段の規定なき限り許されないと解する。かかる請求が許されるとすれば、裁判所が行政庁に代つて実質上行政処身をするのと同様の結果を来たすことになるからである。」と主張する。よつて、まず右主張の当否について考える。

日本国憲法のもとにあつては、裁判所は、具体的な法律的紛争である限り、公法上の事項たると私法上の事項たるとを問わず、その一切について、裁判権を有するものと解しなくてはならない

裁判所法第三条は、この憲法の精神をうけて、「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて、一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と定めてわが裁判権の範囲を明定し、行政事件訴訟特例法は、この趣旨を具体化して行政庁の違法な処分の取消または変更に係る訴訟(いわゆる抗告訴訟)のほかその他公法上の権利関係に関する訴訟について「その裁判手続を規定しているのである。

従つて、裁判所は、抗告訴訟あるいは形式上は当事者訴訟であるが、実質上は抗告訴訟の意味をもつ行政処分無効確認訴訟について具体的な行政処分がなされた後に、その処分それ自体が違法であるか否かを判断して、法律的紛争を解決する国家作用を含むのみならず、具体的な行政処分がなされない以前においても、公法上の権利関係の存否につき法律的紛争が存在し、その紛争を解決する必要がある場合、すなわち確認の利益がある限り、裁判所は右権利関係の存否を確定し、当事者間の紛争を解決して司法上の救済を与える職責を有するものと解しなくてはならない。

このことは、旧行政訴訟においては許されなかつた「その他公法上の権利関係に関する訴訟」を許容し、行政庁の違法に対して人民の権利救済の方途を拡げた現行法制の建前から当然導かれるところといわねばならない。

このように、裁判所が当事者の公法上の権利関係の存否につき法律的紛争のある場合、これを解決して司法上の救済を与える職責を有する以上、裁判所のなす公権的判断によつて関係行政庁が抱束を受け、行政処分のなされる以前に行政庁を拘束するような結果を生ずるとしても、かかる拘束は関係行政庁として当然受忍すべき拘束にほかならず、日本国憲法の採用する三権命立の大原則にいささかも相反するものではない。

裁判所が、争いある公法上の権利関係の存否を確定する裁判は争いある公法上の権利関係につき法規を適用実現して右権利関係の存否を公権的に確定するという純然たる判断作用にとどまるのである。行政庁に対して、将来の作為または不作為の給付を命じているわけではなく、また行政庁の処分を代行するものでもない従つて行政庁の行政作用の発動を不当に侵害するものでもなく、また争いある権利関係を前提とする限りにおいて、司法の行政に対する事後審査の建前を崩すものではない。この裁判の確定判決によつて、関係行政庁が拘束をうけ、一行政処分の行われる以前に行政庁を拘束する結果を生じたとしても、かかる拘束は、行政事件訴訟特例法第一二条に基き関係行政庁の負うべき当然の法的拘束にほかならない。(この法的拘束によつて始めて裁判の実効性が確保され、司法上の救済が現実に保障されるのである。)

従つてこの点に関する被告の主張は失当である。

このことは租税法規の分野においても同様である。相続税法においては、所轄税務署長は、納税義務者から申告書が提出された場合において、当該申告にかゝる課税価格または相続税額がその調査したところと異なるときは、その調査により課税価格または相続税額もしくは贈与税額を更正し(第三五条第一項)、申告をなすべき納税義務者が申告書を提出しない場合においては、その調査により、その課税価格及び相続税額もしくは贈与税額を決定する(同条第二項)。かかる更正または決定処分に対し不服のある納税義務者は、法の定める前審手続を経て、行政上の救済のほか、司法上の救済を求めることができることになつている(同法第四四条ないし第四八条。)しかしこれは租税債務の存在そのものについては争いがないけれども、ただ税額について不服があるに過ぎない通常の場合においては、税務官庁の税額の決定、納税告知によつて租税債務の内容が確定し、具体的に権利侵害の有無が判明し、権利保護の利益が顕著となるからにほかならない。従つて以上の諸手続が設けられていることは、更正または決定処分がなされない以前においても、納税義務者の法的地位そのものに争いがあり、租税債務の存否そのものが争われて、その紛争を解決する必要がある場合、いわゆる確認の利益がある場合、司法上の救済を拒絶することの根拠となるものであり得ない。租税事件についても他の公法上の権利関係におけると同様、ひとしく司法裁判所の判断に服するものであつて、これを制限する主旨の明確な規定は一つもなく、租税事件なるが故にことさらに司法上の救済の範囲を限定するいわれはなんらないからである。

従つて、租税法規の建前からみても、更正または決定処分のなされない以前に、本件のように納税義務のないことの確認を求めることは許されない旨の被告主張は理由がなく、排斥を免れない。

そこで、原告らの本訴請求が確認の利益を有するか否かにつき判断する。

原告らが、いずれも原告ら主張の日時に、その主張のように財産の贈与を受けて成立したことは当事者間に争いがない(ただしその財産の額の点を除く)。ところで、昭和二八年八月一日法律第一六五号相続税法の改正により贈与に対し贈与税なる名称の課税が設けられ、原告緑生会及び原告同生会については贈与税、右改正前には贈与についても相続税を賦課することとなつていたので、原告磯医院、同織本外科病院、同塩田会については相続税がそれぞれ問題となる。従つて、原告らが相続税法第六六条第四項にいわゆる「その他公益を目的とする法人」であるとされ、原告らに対してなされた寄附行為による財産の贈与が、相続税を不当に減少することになるとされるならば、原告らの納税義務が何時発生することとなるか、まずこの点について考察する。

一般に租税債務の成立(納税義務の発生)時期は各種の税法のそれぞれ定めるところによつて一定していないのであるが、随時税にあつては、いわゆる租税要件の充足すなわち原因発生の時であると解するのが相当である。すなわち随時税に属する相続税あるいは贈与税たる本件納税義務は相続税法第三五条第一項及び同条第二項の更正処分または決定処分をまつて始めて発生するものでなく、これに先立つて、財団たる原告ら医療法人がそれ原告主張の日時に資産の贈与を受けて成立した時に発生したものと解すべきである更正処分または決定処分は、納税義務者の申告が不当であるときまたはその申告がないときにのみなされる租税債務の内容の具体的確定手続にほかならない。申告が税務署長の調査したところと異ならないときは、かかる処分はなんらなされないのであるから、租税債務がこの処分により初めて発生すると解するのは当らない。

(租税債務発生の時期は、準拠法、課税標準たるのみならず、租税債権の消滅時効の起算点を定める基準ともなる。従つてこれを具体的な租税債務確定の時期とは明確に区別して考えるべきである。)

つぎに、原告らがいずれも医療法第三九条の規定に基く財団形態の医療法人たること、かかる医療法人に対して、被告が相続税法第六六集第四項にいわゆる「その他公益を目的とする事業を行う法人」に該当するとの法律的見解を採用していることは当事者間に争いがない。原告らは右見解が失当なる所以を攻撃しているのであるから本訴にあつては、原告ら財団の組織ならびに事業の実体如何にかかわらず、医療法第三九条に基く原告ら財団が、相続税法第六六条第四項にいう「その他公益を目的とする事業を行う法人」に該当するか否かという法律解釈が主要な争点の一つとなつているのである。

そして、被告の採用する見解に従うならば、さきに述べた原告ら医療法人財団の各寄附行為が、税務官庁によつて相続税法第六六条第四項にいわゆる「相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となる」と認定された場合、原告らは同条第四項に基く租税賦課処分の対象とされ、次のような法的地位に立たされるのである。

すなわち、原告らの納税義務は、すでに述べたとおり、それぞれ原告ら主張の日時、原告らに対する財産贈与のあつた時に発生することとなるので、原告らは相続税法第二八条により贈与により財産を取得した年の翌年二月一日から同月末日までに確定申告書提出の義務を負担するのみならず、申告書を提出しないで放置する場合には、同法第三五条第二項、第三七条により決定処分をうけ、追徴税額を徴収され、しかも右追徴税額については、同法第五一条第三項により、同法第三三条第一項に定める納期限の翌日からその納付の日まで百円につき一日四銭の割合の利子税額を加算徴収さねることとなる。それのみでなく、同法第五三条第二項により一割ないし二割五分の無申告加算税を徴収されるのみならず、同法第六九条による無申告犯としての刑事上の責任をも問われるおそれがある。

しかも成立に争いのない甲号名証によれば、財団たる原告ら医療法人が、相続税法第六六条第四項に定める「相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果」に該当するものと課税官庁によつて認定される可能性がすくなくとも存在することは疑がなく、これに反しかかる可能性が全くないと断定し得るような根拠は見出しがたい。

以上説明してきたとおり、財団たる原告ら医療法人が相続税法第六六条第四項による相続税あるいは贈与税の課税対象たり得るか否かについて、当事者間に法律上の見解の争いがあり、同条項による納税義務の有無について原告らの法律上の地位に不安定が存在する以上、本件租税債務の存否に関する確定判決によつて、かかる原告らの法的地位の不安定性をすみやかに取り除く必要があり、またその法律上の利益が存在することは明瞭であるといわなくてはならない。

よつて原告らの本件租税債務不存在確認の訴は、いわゆる確認の利益があるというべく、また、たとえ租税賦課処分がなされていなくとも租税債務なきことの確認を求める訴が、いわゆる確認の利益ある限り、当然許されなくてはならないことは、すでに説示したとおりであるから、本件訴は訴訟要件を具備した適法な訴であるといわなくてはならない。そしてこの点は民事訴訟法第一八四条にいわゆる独立した攻撃防禦方法に関する争であつて、中間判決をすることを相当であると認める。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 粕谷俊治)

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